不育症・習慣性流産の治療

妊娠はするけれども、流産、死産や新生児死亡などを繰り返して結果的に子供を持てない状態を不育症と呼んでいます。

習慣性(あるいは反復)流産はほぼ同意語ですが、これらには妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含まれません。不育症はより広い意味で用いられています。

実は学会でも何回流産を繰り返すと不育症と定義するか未だ決まっていません。 しかし、一般的には2回連続した流産・死産があれば不育症と診断し、原因を探索します。

また1人目が正常に分娩しても、2人目、3人目が続けて流産や死産になった際、続発性不育症として検査をし、治療を行なう場合があります。

近年では、不妊症の中で妊娠には至るがなかなか出産まで維持できない状態の方も少なくありません。そのような背景で、不妊症と不育症を分けて考え、それぞれ適した治療をおこなうことが望まれています。

人工授精や体外受精で妊娠しても出産に至らない方はご相談ください。

不育症・習慣性流産の原因

原因としては、子宮の奇形などの形態異常が関係したり、血液凝固障害や膠原病(こうげんびょう)など、全身疾患が関係することもあります。

また、夫婦や胎児の染色体異常、男性側の感染症が原因であることもあります。

器質的な原因がない場合、基礎体温表に赤ちゃんが育ちにくい低体温等のグラフが現れます。

そして、近年、不妊治療によって妊娠された場合で不育となることも多くみられます。

厚生労働研究班による日本の不育症のリスク因子別頻度では

  • 子宮形態異常 7.8%
  • 甲状腺の異常 6.8%
  • 染色体異常 4.6%
  • 抗リン脂質抗体症候群 10.2%
  • 凝固因子異常として第XII因子欠乏症 7.2%
  • プロテインS欠乏症 7.4%
  • プロテインC欠乏症 0.2%
  • 原因不明 65.3%

子宮の形が悪い子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常が6.8%、両親のどちらかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体症候群が10.2%、凝固因子異常として第XII因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%あります。

なお、不育症例に陽性率の高い抗リン脂質抗体の一種である抗PE抗体陽性者が、34.3%に認められますが、この抗体が本当に流産・死産の原因になっているかは、未だ研究段階です。検査をしても明らかな異常が判らない方が65.3%にも存在します。抗PE抗体陽性者を除いても約40%はリスク因子不明です。

明らかな異常が判らない65.3%の方にこそ鍼灸治療が活かされます

患者さんの体が出産に見合った状態でないにも関わらず機械的に不妊治療(特に体外受精等)を続けた結果、妊娠はするけれども出産に至らない場合は特に不育症に対する治療が必要となります。

不育症の頻度

日本において妊娠した女性の40%に流産の経験があり、約4%が不育症と考えられると厚生労働省の調査で報告されています。現在、日本には2~3万人の不育症の方がいると推定され、多くの女性が不育症で悩んでいます。

また、1回目の妊娠で流産になる確率はおよそ15%くらいあります。

切迫流産

流産とは、妊娠初期から22週未満までに妊娠が継続できなくなることを言います。赤ちゃんがお腹の中からでてきて、生存できるギリギリのラインは、妊娠22週とされています。このため、妊娠22週までに胎児が母胎から出てしまうと流産になってしまうのです。

それに対し切迫流産は、妊娠22週未満までに流産しそうな状態をいいます。そのため、流産の兆候が治まれば、ほとんど無事に出産を迎えられます。

切迫早産

切迫早産とは、妊娠が継続しているものの、22~37週未満に規則的な子宮収縮(陣痛)が続いたり、子宮口が開く兆候として子宮頸管が短くなったり、子宮口が開いたり、といった早産の兆候がある状態をいいます。

早産になると、週数や母子の状態にもよりますが、産後に赤ちゃんの成熟度に応じて未熟児治療が必要になります。

場合によってはNICU(新生児集中治療室)の整った病院へ転送されたり、自力で生きられるようになるまでの間保育器に入ったりすることもあります。

主な原因としては、細菌による膣内感染があげられます。

切迫流産の症状

切迫流産のサインは、出血と下腹部の痛みです。
出血については、ダラダラと続く、量が多い、鮮血が続くといった症状が見られます。
下腹部については、お腹がつっぱる様な感じではなく痛みを感じます。
これらの症状が見られた場合は、注意が必要です。

こうした症状は正常妊娠でも起こりえますが、正確なことは超音波検査(エコー検査)を受けてみないとわからないので、必ず病院へ行くようにしましょう。

切迫流産の治療・予防法

もし切迫流産と診断されてしまったら、できるだけ安静にして過ごすことが治療の基本です。症状や仕事、家庭の状況などによって、自宅療養から入院まで、安静の度合いは異なります。安静の度合いについても病院で具体的に確認しておきましょう。

また、出血や下腹部の痛みがあらわれた時は、慌てず、今の症状が少し落ち着くまで安静にしていて下さい。流産になってしまう原因に、症状があらわれた時、慌てて動いて病院へ行くことでもあります。

妊娠12週以降であれば、出血を止める薬やお腹の張りを抑える薬を使って様子をみる方法もあります。とはいえ、これはあくまで切迫流産そのものの治療ではなく、症状を和らげるためのもの。そのため、やはり安静にしておくことが一番大切です。

具体的には、以下のことに注意しましょう。

  • 重い物を持たない
  • 手を伸ばし高い所の物を取ろうとしない
  • 激しい動きや運動をしない
  • 体を冷やさない、血行を良くする
  • たばこ、酒を避ける(副流煙にも注意)
  • ストレスや過労を取り除く

東洋医学からみた不育と習慣性流産

まず初めに、不育症として65.3%存在する原因不明ですが、ここではホルモンバランスが関係しています。

1.女性ホルモンの働き

基礎体温と排卵、女性ホルモンの関係

女性のカラダはおよそ1カ月の周期(平均28日)で変化します。大きく卵胞期と黄体期に分かれ、その間に排卵があります。

1. 卵胞期(月経開始日から14日目ぐらいまでの期間)

卵巣にある原始卵胞が、脳下垂体でつくられるFSH(卵胞刺激ホルモン)に刺激されて成長を始めます。

成熟した卵胞からはエストロゲン(卵胞ホルモン)が多量に分泌され、子宮の内側の組織である内膜が徐々に厚くなっていきます。

2. 排卵(次の月経開始日のおよそ14日前)

血液中のエストロゲンの量が一定量を超えると、脳の視床下部からGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。

さらに血液中のGnRHが一定量を超えると、下垂体からLH(黄体形成ホルモン)が大量に分泌されます。このLHの大量分泌を合図に卵胞から卵子が飛び出し排卵となります。

3. 黄体期(排卵後から月経が始まるまでの約14日間)

排卵後の卵胞は黄体という組織に変わりプロゲステロン(黄体ホルモン)をつくるようになります。プロゲステロンは体温を上げることから、この時期を「高温期」ともいいます。

このプロゲステロンのはたらきで子宮内膜はさらに厚くやわらかくなり、受精卵が着床しやすい状態になります。

受精にいたらない場合は、内膜がはがれて月経が起こります。

不育症の場合、プロラクチンを始めとするホルモン分泌が低下してしまうため妊娠を維持できなく流産してしまうことが少なくありません。

そのため、不育症の治療では、基礎体温表で示すところの高温期を維持するための治療をしていきます。

★令和3年1月1日から変更された助成制度

  • 所得制限がなくなりました
  • 助成金が1回30万円になりました
  • 助成回数が1子ごとに6回までになりました

※1
40歳以上43歳未満は3回まで
※2
対象者については、原則、法律婚の夫婦を対象とするが、生まれてくる子の福祉に配慮しながら、事実関係にある者も対象とする。

厚生労働省:不妊治療に関する取組

人工授精や体外受精で妊娠した患者さんが出産に至らないのは、機械的に妊娠させるだけで、高温期を維持する体質が出来上がっていないからです。

不妊治療に対する高度生殖医療の助成制度が充実したからこそ、やみくもに不妊治療をおこなうのではなく、確実に妊娠、出産するために鍼灸治療が必要なのです。

東洋医学の考え方では、次の3つが高温期を維持できない不育症の主な原因と考えます。

1.腎(じん)の機能低下によるもの

腎とは、命の源となる力を蓄えているところであり、発育・生殖に大きく関わりがあります。この働きを活性化させるツボを刺激することによって体のバランスを整えていき、赤ちゃんが育ちやすい環境を作ります。

2.「冷え」によるもの

母体が冷えると、温度に敏感な胎児にとって大きな負担になってしまいます。

また、冷えにより血液循環が悪くなると、母体の血液から栄養をもらっている胎児に栄養が行かなくなってしまいます。

鍼灸治療には、冷えた部位のみを温めるだけでなく、身体を内側から温める力があります。

3.ストレスによるもの

妊娠時はいろいろな事に対して敏感になりがちで、いつもよりストレスが溜まりやすい状態にあります。それに加え、一度流産を経験した方にとっては不安も大きいものです。心が不安定になると、母体だけでなく赤ちゃんの発育にも影響を及ぼします。鍼灸治療には心を安定させる効果があり、ストレスの緩和にもつながります。

ストレスと女性ホルモンの関係
ストレスと女性ホルモン

脳は過剰なストレスを受けることによって、視床下部からストレスホルモンと呼ばれているCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌を促進します。

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンは、食欲や睡眠および脳の下垂体からの性腺刺激ホルモン分泌を抑制させてしまいます。

つまりストレスを受けると、性腺刺激ホルモン放出の分泌が抑制されることにより、性腺刺激ホルモンであるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)は減少し、最終的にエストロゲン、プロゲステロンの分泌が抑制され、不育傾向になります。

不育症に対する鍼灸治療

不育症・切迫流産

不育症の主な原因として上記の3つに分類されますが、患者さんの体の状態により使うツボも変わります。

あくまでも治療法に患者さんを当てはめるのではなく、患者さんに合わせてより良い治療法を選ぶことによって、妊娠を維持する事のできる体作りをします。

また、妊娠時には、つわりや、便秘、腰痛などで悩む方が多くいらっしゃいますが、このような症状にも鍼灸治療が効果的です。

お腹の赤ちゃんのためにも薬に頼りすぎず、鍼灸治療で自分の体が持つ力を高め、体調を整えていきましょう。

不育症に効果のあるツボ

復溜

復溜は不育や流産癖など妊娠後に胎児が育たない状態の時に効果があり、腎機能低下を補う補腎のツボです。

不妊治療にも使われるツボで、排卵後、高温期の時に体温が上がりにくい、胎児が育ちにくい時に体温をあげてくれる効果があります。

三陰交

「女性の三里」と呼ばれ、女性にとって重要なツボの1つです。   
子宮や卵巣の機能が向上し、女性ホルモンのバランスが整う効果があります。
妊娠してから、お腹の張りを軽減させたり何かと必要なツボとなります。

鍼灸治療は、不妊症や不育症の治療に対して学術的に効果があることが証明されてきました。そして、その中で、流産の予防ができることも判明しています。
妊娠前後のお悩みはどのようなことでも構いません。お気軽にご相談下さい。そして、万が一のことがないように予防していきましょう。